首都ワシントン上空に侵入した「幽霊飛行機」の真相とは? 低酸素症とオートパイロットが引き起こしたセスナ機墜落事故

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 高度1万メートル。乗客乗員を乗せたプライベートジェットが、無線に一切応答しないまま、真っ直ぐに空を飛び続けている——。まるでパニック映画のワンシーンのようだが、これは2023年6月にアメリカの首都ワシントンの上空で実際に起きた、身の毛もよだつ「幽霊飛行機」の事件である。

 パイロットが意識を失ったにもかかわらず、なぜ飛行機は墜落することなく数時間も飛び続けたのだろうか。その答えは、現代の航空機が持つ「優秀すぎる機能」と、空の上の「見えない殺人鬼」にあった。

無言のままUターンし、首都上空へ侵入したジェット機

 2023年6月4日。パイロット1名と乗客3名を乗せたセスナ・サイテーション560型機は、テネシー州を飛び立ち、ニューヨークのロングアイランドへ向かっていた。

 離陸から約15分後、高度が1万メートル(3万4000フィート)に達した頃、航空管制官は交差するトラフィックを避けるために「高度3万3000フィートで待機せよ」と指示を出した。しかし、パイロットからの応答はなかった。その後、二度とコックピットから声が聞こえることはなかった。

 離陸から約80分後、ロングアイランドに到達したジェット機は、突如としてUターンし、高度1万メートルを保ったまま南西へと引き返し始めた。そして午後3時前、応答のない民間機が首都ワシントンD.C.の厳重な空域に侵入するという非常事態に発展した。

 ただの通信トラブルではない。事態を重く見た軍は、メリーランド州のアンドルーズ空軍基地からF-16戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、ジェット機を追跡した。

「優秀すぎるオートパイロット」がもたらした悲劇の延長戦

 F-16のパイロットが上空で捉えたセスナ機は、外から見る限り異常はなかった。機体は高く、速く、そして矢のように真っ直ぐ飛んでいたのだ。しかし、コックピットの中はすでに「人間の制御下」にはなかった。

 なぜパイロットが応答しないのに、飛行機は安定して飛び続けていたのか。原因は「オートパイロット(自動操縦)」だ。

 オートパイロットは、車の自動運転のように「周囲の状況を判断して走る」わけではない。「この高度を維持しろ」「このルートを飛べ」という入力された指示を、ただひたすら忠実に守り続ける機能だ。

 ロングアイランド上空での急なUターンも、パイロットが意識を失う前に設定していた「帰路のルート」を、フライトコンピューターが自動的に実行しただけだと見られている。乗客乗員が絶命の危機に瀕していることなど知る由もなく、機械はプログラムされた通りに、主を失った鉄の棺桶をテネシーへ向けて運び続けていたのだ。

コックピットを襲った「見えない殺人鬼」低酸素症

 国家運輸安全委員会(NTSB)の最終報告書によれば、悲劇の引き金となったのは「機内の急減圧」だ。

 高度1万メートルの空気は薄すぎて、人間は呼吸器の助けなしでは生きていけない。機内の気圧が下がった場合、パイロットは瞬時に酸素マスクを着け、機体を安全な高度まで急降下させなければならない。しかし、整備記録によると、あろうことかこの日のフライト前に「パイロット側の酸素マスクが取り付けられていなかった」という。

 酸素マスクがない状態で気圧が下がると、人間は「低酸素症」に陥る。この低酸素症の恐ろしいところは、苦しむことなく「穏やかに、ゆっくりと混乱し、自分の判断力が失われていることにすら気づかない」点にある。

 パイロットのジェフ・ヘフナー氏は、自分が危険な状態にあると認識できないまま意識を失っていったと推測されている。

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エンジンが止まるまでの「最後の飛行」

 追跡するF-16のパイロットたちは、無線で何度も呼びかけ、機体を傾けて視覚的な合図を送ったが、セスナ機からの反応は一切なかった。

 やがて、燃料が尽きてエンジンが停止し始めた。それでもオートパイロットは、最後の最後まで高度とコースを維持しようと健気に働き続けた。しかし、物理的な限界を迎え、機体は急激な螺旋を描きながら落下していった。

 午後3時23分、ジェット機はバージニア州の森に墜落。生存者は誰一人いなかった。

 実は、パイロットが意識を失ったままオートパイロットで飛び続ける「幽霊飛行機」の事件はこれが初めてではない。1999年にも、プロゴルファーのペイン・スチュワートらを乗せたリアジェットが急減圧によって全員が意識を失い、軍の戦闘機に追跡されながら数時間飛び続けた末に墜落するという痛ましい事故が起きている。

 機械は人間のミスやトラブルをカバーするために進化してきた。しかし、一度人間の手が完全に離れてしまった時、その「優秀な機械」は、最悪の結末を先延ばしにするだけの不気味なオートマタ(機械人形)へと変わってしまう。テクノロジーへの過信と、見落とされた小さな整備ミスが招いた、あまりにも現代的で悲しい空の上の密室劇である。

参考:Popular Mechanics、ほか

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