舵の半分を食いちぎられた8分間! シャチ3〜4頭がヨットを執拗に叩き続けた瞬間の映像がスペイン沖で撮影される

画像は「Daily Mail」より

 スペイン沖でヨットを走らせる者たちが今、嵐や岩礁以上に恐れているものがある。黒と白に塗り分けられた、あの巨体だ。

 レガッタを終えて別のマリーナへ回航していた1隻のヨットが、3〜4頭のシャチに取り囲まれ、約8分間にわたって船尾を執拗に叩かれ続けた。失ったのは舵のおよそ半分。乗員が撮影・公開した映像には、船の周囲を旋回し、水面下から繰り返し操舵装置に突っ込むシャチの姿が記録されている。

舵の半分が消えていた。8分間、船尾の真下で何が起きていたのか

 現場はスペイン北部サン・ビセンテ近海。セイカ・レーシングのクルーが競技を終え、ヨットを別の停泊地へ移動させている最中に、シャチたちは現れた。

 映像には、乗員が甲板から見下ろすすぐ脇に次々と浮上してくるシャチが捉えられている。狙いは一貫していた。群れは船尾の下、船の進む方向を決める舵のある一点だけをめがけ、何度も潜り込んでいったのだ。

 米カリフォルニア出身の乗員ゲージ・バトラー氏は、この動物たちがいかに賢く、群れとして遊び、狩るのかを目の当たりにできた興味深い体験だったと振り返る。だが同時に、船体に穴が開いて浸水が始まっていないかを確かめて回る間は、アドレナリンが吹き出しっぱなしだったとも明かしている。

 幸い、乗員は全員無事。損傷も舵の半分を持っていかれた以外に大きなものはなかった。バトラー氏は、シャチたちが水族館で見た個体より小さく見えたことから、おそらく若い個体が船をおもちゃにして遊んでいるうちに舵を壊してしまったのではないか、との見方を示している。

画像は「Daily Mail」より

2020年から続く「イベリアのシャチ問題」、沈没した船も複数

 この種の襲撃は、もはや珍しい出来事ではない。イベリア半島周辺の海域では、2020年にこの奇妙な行動が初めて記録されて以降、通りかかった帆船が繰り返しシャチに体当たりされる事案が続いている。特に多いのが、スペイン南部と北アフリカを隔てる細い水路、ジブラルタル海峡付近だ。

 シャチたちの手口はほぼ共通している。船尾に接近し、舵に噛みつくか叩きつける。結果として舵を破壊された船は操舵不能に陥り、漂流する。

 事態は「船が壊れた」では済んでいない。ひどく損傷して沈没した船も複数報告されており、2024年にはジブラルタル海峡で全長約15メートルのヨットが体当たりを受けて沈没。当時の時点で少なくとも5件目の沈没事案とされている。

 ただし「キラー・ホエール(殺し屋鯨)」という物騒な英名に反して、野生のシャチが人間に直接危害を加えることは滅多にない。野生個体による人間の死亡事故は一件も記録されておらず、イベリア半島の一連の事案でも、彼らの関心は乗っている人間ではなく船そのものに向いている。

Image by Wolfgang Lucht from Pixabay

報復か、それとも遊びか。科学者たちの見解も割れたままだ

 では、なぜシャチは船を襲うのか。科学者たちの意見は今なお割れている。

 最も広く報じられてきたのが、「ホワイト・グラディス」と呼ばれるメスのシャチを軸にした説だ。この個体は過去に船との衝突などで負傷した可能性が指摘されており、その経験をきっかけに船を標的にし始め、群れの仲間が行動を真似るようになったとされる。人間の船に痛めつけられたシャチによる報復、というわけだ。

 ただし、研究者たちはこの襲撃が復讐心によるものだと確認したわけではない。物語としての座りは良いが、裏付けはない。

 もう一つの説は、遊びだ。高度な知能と複雑な社会性を持つこの動物たちの間で、一種の流行として広まったという見方である。若いシャチが、舵は動き、力を加えると抵抗し、やがて壊れるということを学習してしまい、その面白さゆえに次の船へ、また次の船へと向かっている、というわけだ。

 2024年の報告は、この行動が他の集団で見られた一過性の流行と同じく、いずれ消えていく可能性を示している。だが執筆者たちは同時に、いったん収まったように見えても将来また再燃しうるとも警告する。知的で社会性が複雑、しかも常に新しい行動を編み出す野生動物が相手である以上、科学が振る舞いを確実に予測することはできない、というのがその立場だ。

報復なのか、流行なのか、それとも人間がまだ思いついてもいない別の理由があるのか。答えを知っているのは海の中の彼らだけだ。舵を壊された船乗りに残されているのは、次に狙われるのが自分の船でないことを祈る時間しかない。

参考:Daily Mail、ほか

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